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vol.122

月刊「WHIPLASH」NOV,2016

11月の目標:来年の旅費を稼ぐべく…

この雑記は適当にダラダラ書いているので、前回の原稿を渡した日(だいたい各月23日頃)の翌日から、約1カ月のことが出ています。今回の場合は9月28日から10月23日までです。

今年も海の状態はよくなかった駿河湾夜遊び。湾内はベタでしたが、ポイント周辺はイヤなウネリがあり、英国紳士バウアー総督はすぐにダウン。さらに慣れてるはずの現地の知人もぐったり。その他2名ほども軽い船酔いになった模様。さいわい自分は大丈夫だったので、1年ぶりに重いジグをしゃくってみました。すると18時過ぎにこの日の船中1本目が自分にヒット。今回が初サットウ釣りなので「まずは1本確実に」と隣でエサつきでやってたコーヘイ君も回収中にヒット。というわけでダブルヒットでした。これは幸先イイぞと思っていたのですが、その後活性はよくなく沈滞状態。エサつきの人にはアタリはあるのですが、ちゃんと食い込まずサンマやイカをかじられる程度。そんな時間帯には自分は多国語スピーカーTAKA-METAL氏のタックルを貸してもらって、爆裂爛漫息子センセーとスジイカ釣り。これはこれでけっこうおもしろい。その後スジイカ釣りの合間にジグを投入してサットウを1本追加。そうこうするうちに残り時間は少なくなりラスト30分に。ここでそれまでアタリだけでエサをとられ続けていたコーヘイ君のヨメのカヨコさんに1本。サットウとしては大きくありませんでしたが、初物だったし、夫婦ともこれまでの釣り人生における最大最強魚だったので喜んでくれました。
2日目は地上もやや風あり。海上はまたしても風と波がバラバラだしウネリはあるしで、たいてい2日目はなんとか持ちこたえる総督が即死。そしてたまたま乗り合わせたサットウ初体験の千葉の釣り人も嘔吐の連続。この人、漫画の吹出しそのものの「オーゥエー」というデスメタル声とともに吐きまくるので、とっても気の毒ではあるけど某芸人さんにちなんで、こっそり「オーゥェイですお」と命名。それだけ吐きながらも時にタックルを手にし、エサ付きでなんとか1本キャッチ。おとなしそうな人だったが、見上げた根性だ。この人、帰港途中にポツリと一言「友だちが『駿河湾なんて湖みたいなもんだ』と言ってたのに…」。まあ湖でも時には一面ウサギが跳んだりするわけで、まして今回は気圧配置のよろしくない駿河湾、そんな静かな海面であるはずがない。もう懲りたかな?また来るかな? そうこうするうちに剣道七段氏に大型がヒット。これが今回の最大魚となりました。一方自分はまったくアタリなし。やっと軽い食い損ねがあったが、いくらフォローのアクションをくわえても追い食いなし。まあそれでもくさらずにしゃくっていると、ついにいいアタリが1発。アワセの直後からドラグがゆっくり単調に滑ってラインが出る。重量感もある。これはいいサイズかも。何度も元気のいい突っ込みがあり、その都度プレッシャーをかけて止める。リーダーが見えてからも数度突っ込み最後まで抵抗してくれました。でも姿を現したのは、想像していたよりひとまわりは小振りな20kgほどのサットウ。いや、大きさより引きが肝心。この魚はうまい具合に船縁リリース。初日に地元町内会から「釣れたら持って帰ってほしい」と依頼を受けてたF氏。サットウを数本持って帰ったら「なんだサットウばかりか。明日はバラを釣ってこい」とリクエストされ、この日は170mぐらいまで落としてエサつきでバラ狙い。小サットウを1本釣った後、待望のバラをキャッチ。「これで使命を果たせた」と大喜び。
2日とも海の状態はよくなかったし、魚の活性もいいとはいえませんでしたが、まあなんとか楽しく遊んで帰ってくることができました。

[タックル_1]

  • Rod:SLEDGEHAMMER 65X-13改(Whiplash)
  • Reel:SALTIGA-Z40(Daiwa)+PE#6G+150lb Leader
  • Lure:LANCE 250g(Shout!), SALTIGA SACRIFICE II SLOW KNUCKLE 300g(Daiwa)

[タックル_2]

  • Rod:KAMAJA IKJ70SD SUPER DEEP改 5'7" SPINNING(blank:Valley Hill)
  • Reel:SALTIGA-6000(Daiwa)+PE#6G+150lb Leader
  • Lure:LANCE 250g(Shout!)

*参考までに
自分が釣れた時のアクションは初日1本目は飛ばし系、2本目はミドルスピードのワンピッチ。初日はトーリョーもやや飛ばし気味でアタってたみたい。2日目のはミドルスピードでカクッカクッと動静をはっきりさせたワンピッチ。ラインスラックを意識して動かしていた時にきました。剣道七段氏の大型はフォールで食った模様。

前後しますが、9月下旬に行った北海道の話です。
台風10号の影響はまだ残っていて、当初メインでやる予定だった川がド濁りで釣り不可能でした。初日はGRのメル先輩とふたりで雨の中頑張ってみましたが、メル先輩に小型のニジマスが1本釣れただけで、自分は追いと食い損ねのみ。やがて雨は強くなり、すっかり心を折られて川から撤退。
2日目はひとまずニジマスから離れてオショロコマに。こちらはいる場所にいけば無邪気にルアーを追いかけてきてくれて、エゾイワナを含めて楽しい釣りができました。しかし楽しいとはいっても、その場所は完全なヒグマの領域内。そこへ向かう途中の道路でもフンを複数見かけるし、登山道沿いの木には爪痕があるし、ミズバショウは一面なぎ倒されてるし…。旭川のTM君とふたりでフンをほじくって観察したところ、毛や骨片はまったく見当たらず、植物食と判断できたので、ほんの少し安心。夕方にはキャッチ&リリース区間の設定されたオホーツク海に流れ込んでいる川までドライブ。そこではおびただしい数のカラフトマスの遡上を見ることができました。カラフトに混じってシロザケもいたなあ。そして薄暗くなりかけた頃、その川のとある中洲で、ありもしない牛小屋の臭いを嗅ぐことになりましたが、その話は下の方に。
そして3日目は初日と異なる川でニジマス狙い。結果的に自分に釣れたのはニジマス2本。いいサイズのニジが足元まで追いかけてきて食い損ねとか、濃いレッドバンドが丸見えのマジで大きなオスが2度にわたって食い損ねとかで、いいサイズの魚には恵まれませんでしたが、野生のニジマスの見事な運動能力を目の当たりにしたし、婚姻色の出たサクラマスも見ることができて感激し、「来年もまた行かないと」と思った次第です。3日目は山奥に入ったわけではありませんが、ヒグマをもっとも身近に感じました。その話も下の方に。
ニジマス釣りは貧果に終わりましたが、本土ではめったにお目にかかれないモノや、本土にはいないモノもいろいろ見ることができて、実に充実した旅行となりました。風景はなんとも雄大だし、エゾシカはでかいし、キタキツネはフツーにいる。現地で案内役をやってくれたTM君、いろいろお世話になったGRのメル先輩(自分にとっては先輩ではないが、TM君にとっては大学の先輩にあたるので、ついそういう呼び方になってしまいました。メル○○○というミドルネームをもってますが多分100%日本人)にあらためてお礼を申し上げます。

[タックル_1]

  • Rod:RAW DEALER R705RRL-S2 THE ENTRANCER
  • Reel:10 CERTATE 2500 w/2510PE-H Spool(Daiwa)+PE#1.5+Leader
  • Lure:SPEARHEAD RYUKI 70S&80S(Duo), CHINOOK 17g(Daiwa)

[タックル_2]

  • Rod:RAW DEALER R7▽▽R◇L2 THE H◇○□N ※◯▽△◇R_test
  • Reel:15 CATALINA BJ 100SH(Daiwa)+PE#2+Leader
  • Lure:SPEARHEAD RYUKI 80S(Duo), CHINOOK 17g(Daiwa)

[タックル_3]*山岳渓流のエゾイワナ&オショロコマ

  • Rod:GILLIE HEADWATERS 53 Bait(Zenaq:今のところワタクシの個人的特注品)
  • Reel:SS AIR(Daiwa)+PE#0.4+Leader
  • Lure:EMISHI 50S(Ito Craft), TX50RSS(Ray Tune), SA50RS(Ray Tune), DR MINNOW 5FS(Daiwa), DR MINNOW JOINT 5S(Daiwa)

TBR-107はもう少しで来春の発売に向けての生産に移ることができそうです。「リトリーブでは安定、ロッドワークではアクロバティックな動きも自在に出せる」という当初の目標は、F、SP、Sともにだいたい達成できたように思います。上のTM君もイトウを2本釣ってくれたしね。特に2本目はロッドワークで動かした、まさにその瞬間に食ってきたそうです。
というわけで107には目処がついたので、バルサで91と121を試作。121って大きく感じるけど、実際35cm程度のバスだって12cmぐらいのオイカワぐらい食うわけで、そういう観点からするとルアーとして特に大きいわけではありません。それに昔から120mmぐらいのミノーって出したかったんよな。海外のいろんな魚にも対応できるもん。出すとなったらワイヤー貫通でやりたいね。一方91ってすごく一般的なサイズやん。90mm前後というのは、淡水でも海水でもミノーのひとつの規範となるサイズだと思っています。それより小さいのも考えたけど、B-FREEZEの78という名品があるから別にイイか…と。でもTBRの動きはB-FREEZE系とはかなり違うもんな。ひょっとしたら80mmぐらいの小さいを作るかもしれませんが、そうなると数年内に釣り業界を辞めて、WHIPLASHを葬って(自分ひとりしかいないから、自分が「やーめた!」といえば完全に終わりなのである)海外移住なんて悠長なことは言ってられなくなる(笑)。そうやってあれこれ思いついては作りたくなり、結果的にずるずると日本に居残ることになりそうなイヤな予感がします。まあなにはともあれ91と121はできるだけ早くプラ化したいなあと思っております。

まったく偶然ですが、バズベイトにかんして同じことを考え、製作していた人が自分以外に2名いたことを知りました。「ひょっとして実用新案とか特許って…?」という話になったので、「もちろん申請してませんよ」と答えました。他の人たちも同様らしく、で、「よかった。みんな問題なく作れるね」ということに。ワタクシごとで言いますと、そのタイプは2012年冬から製作し、2013年初夏から試行錯誤しながら使っておりました。「ヘンなモノを使ってるな」と気づいた人もわずかにいるみたいですが…。諸事情あって市販化はずいぶん遅れ、「NOIZE ADDICT-UC」という仮称で現在進行中です。本当は「UC」とは言い過ぎで「N・E・T・C」なんですが、こんなアルファベットの羅列では何のことかわかりませんよね。そうとう勘のイイ人でもおそらくこれは読み解けまい。正式名は「NOIZE ADDICT RHINOCEROS」になるか、もしくは仮称のまま「NOIZE ADDICT-UC」でいくか…。2017年のバレーヒルさんのカタログには、プロトモデルの写真とスペックぐらいは掲載できます。できれば来年の晩夏までにリリースしたいです。

「えっ!?」と驚いたノーベル文学賞。個人的には今年こそは村上春樹氏だろうと思っていたのだが、まさかボブ・ディラン師とは…。この時ふと頭によぎったのは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』だった。ハルキストの人たちは「ディランなら仕方ないな。むしろこれは喜ばしいことでもある」と言うだろうし、当の村上春樹氏もきっと祝福していることだと思う。

不遜と思う人も不快に感じる人も多いだろうし、一方「彼らしい」と思う人もいる。自分は一応後者ではあるが、イイ気分かといえば、そうではない。世間の思う「オトナ」と「アーティスト」の溝を、ディラン師は無視し続けるのだろうか。

プミポン国王の死去に思う。国家・社会の支柱のような存在を失った不安が不穏に転じなければいいが…。細かい人となりは知りませんが、政治危機を再三にわたって調停したり、農民を心から気遣ったり、国民の敬愛を一身に受けた国王という印象があります。この方こそノーベル賞ものかも。いや、それどころの存在じゃないか…。合掌。

最近の!!な試合

★UFC204 ミドル級選手権 マイケル・ビスピン vs ダン・ヘンダーソン

いや、双方の持ち味が堪能できたイイ試合だった。結果は判定でマイケル・ビスピンの勝利だったが、試合後の顔の状態だけ見ると、気の毒だけど誰もが敗者と思うだろうな。1Rにヘンダーソンの右が炸裂しビスピンが倒された時は、初戦と同じ結果を予測したが、ビスピンは復活。その後も再三右で倒されるが、手数とアグレッションで応戦しヘンダーソンを封じ込めた。46歳のダン・ヘンダーソンはこの試合で完全引退を宣言。自分がヘンダーソンの試合を観はじめたのはRINGSから。長きにわたり、いい試合を見せてくれてありがとうと言いたい。またひとり好きな選手が去った。

最近の愛読書

★『熊!に出会った 襲われた』 つり人社書籍編集部編

山岳渓流に釣りに行くようになって以来、まだ遭遇はしていないものの、ツキノワさんは身近な動物になりました。フンや足跡、爪痕や食痕を見るのはフツーのこと。しかし臭いを嗅いだのはまだ5〜6回だし、その中でも「つい今し方までそこにいたやろ」という濃厚なのは1回だけ。それに基本的にツキノワさんは臆病だし、子連れの間にでも入り込まないかぎり、滅多なことはないだろうと、楽観的に見ていたのも事実。だから今年の5〜6月にかけて秋田県鹿角市で起きた事故には驚きました。そして初の北海道で、近畿や北陸の山岳渓流のツキノワさんどころではないヒグマの身近さを実感しました。そんなこともあり、『鱒の森』でも紹介されていたこの本に手をのばしたわけです。読み終えての感想は「やっぱり用心にこしたことはない」ということ。ある日、ふと「クマは『クマクマ…』とか『クーマクーマ…』と鳴くのが語源だ」という話を思い出し、ネット検索してみました。すると少し聞き取りづらいけどありました。安佐動物公園のツキノワさんの動画です。たしかに「クマクマ…」と鳴くというより「つぶやいて」ました。このクマだっけ?棒切れを振り回すのは…。

★『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹著

最初に読んだのは大学生の頃だった。同じゼミの女子の論文が村上春樹の小説だったので、その発表に先立って予備知識として読んだ記憶があります。当時、一部女子大生の間にはテニスラケットに村上春樹の小説というのがひとつのスタイルとしてあって、コンパ中心の出会い系おちゃらけテニスサークルであっても、深く読まないのに、タイトルが「おしゃれ」だとかいってラケットと文庫本は彼女たちの必携品となっていたのです。そーいうのも自分を村上春樹の小説から遠ざけていた一因でした。当時のケーハク・テニスボーイズ&ガールズは、ロックとバイク(と不良を象徴するその他もうひとつふたつ)に浸り込んだ自分たちには最もケリを入れたくなるもののひとつでしたから…。しかし、いざ読んでみるとその世界にぐっと引き込まれました。「獣」とは?「古い夢」とは?と印象的な言葉の象徴するものを考えていくと、タイトルの「おしゃれさ」とケーハク・テニスボーイズ&ガールズが理由で忌避していたのがもったいないほどおもしろく、重層的な世界に迷いこんだような気分になったのを憶えています。それは『羊をめぐる冒険』も同じ。さてその『世界の終わり…』の中にボブ・ディランの曲が出てくるのです。興味のある人は是非。長篇だしけっこう展開があるので、読書になれない人にはキツイかもしれないけど。

最近の珍事件

★ニアミス!?その1

北海道のとある川の話です。まず1本目はカラフトマスがたくさん遡上していた川。ここの中洲には、けっこうな数のカラフトマスの死体が転がっており、その中にはクマさんに食われた残骸もかなりありました。食われているのはオスが多く、たいていは肛門あたりから腹にかけてなくなっており、それでも赤い臓器はけっこう残されているので、クマさんの目当ては精巣かな?と。さてその中洲を少し下っていると、牛小屋のような臭いがむう〜っと漂ってきました。そして鼻を突くアンモニア臭も。両側は深い森なので近くに牧場なんてあるわけないのに…。それに周囲は夕暮れの気配。いやな予感がしたので、岸辺の森を凝視しつつ中洲をゆっくりもと来た方へ戻っていくと、少し上流にいたTM君が「こんなところに足跡があります」と教えてくれました。見に行くと砂地にめり込んだクマさんの足跡が。そしてその近くにはやはり腹部を食われたオスのカラフトの死体。自分は中洲の本流側を通ったので、岸寄りにあったその足跡には気づかなかったのです。「実は中洲の終わるあたりにはイヤな獣臭が漂っていて、ついでにアンモニア系の臭いまでしたので戻ってきたんや。するとここにはこんな足跡。これはヤバイやろ?」。「怖いですね。出てないうちにさっさと戻りましょう」。あたりは薄暗くなってくるし、さっさと写真だけ撮って急ぎ足で撤退。「メル先輩はどこにいるんでしょうね?」「彼はきっと入川点に戻ってるよ。あそこは国道の橋の近くだし、ロープを伝うほどの急斜面の真下やからクマに遭遇する確率は低いと考えて戻ってるはず」。入川点に着くと、メル先輩はあたり一面に漂うカラフトマスの死臭の中にぽつんと立って「遅いじゃないか。日も暮れたのに…。ヒグマが出たらどうするんだ」と言わんばかりの恨めし気な目で我々を待っていました。

★ニアミス!?その2

ニジマスを釣りに行った時のこと。車を止めて草が伸び放題の廃道を通って川辺に出ました。少し下った岩場でライズを目撃。すかさず投げると岩場に絡んだ複雑な流れの中で、けっこう大きい魚がぎらっと反転しルアーを襲ってきました。しかし食い損ね。次のキャストでは、その魚は体をあらわにして襲ってきましたが、2度アタックしてかすりもせず。その際、岩場に体を少しぶつけたようで、その後はいくらやっても出てきませんでした。鼻が伸び、濃いレッドバンドがくっきり浮かんだ大きなオスのニジでした。残念がっていると、TM君が少し下流の護岸の崩れから水面近くに降りることができそうだと言う。そこで食い損ねポイントをより水面近くから攻めてみることにしました。50mほど下流にくだって崩れを降り、狭い足場を伝って元の岩場に。少し休めてからキャストを開始し、ミノーからスプーン、カラーやトレースコース、深度の変更を繰り返しました。実はこの時、何となく気になって、岩場に跳びうつって釣りをしていた間にも、ちらちらと背後の廃道のほうに視線を向けていました。何がどうしたというわけではありませんが、何となく気になっていたのです。一方釣りの方はいろいろ試してみましたが、魚の反応はありません。諦めて同行者のいる下流に向かうことにしました。そして元の崩れの場所まで戻り、廃道に上がろうとした瞬間、牛小屋に顔を突っ込んだかのような獣臭がしました。それは本能的に危険を直感させるほどの圧倒的な臭いでした。「ヤバイ。ヤツは近い」。登りかけた崩れに身を伏せ気配を消して、護岸の残骸の隙間から静かに廃道をうかがいました。目と鼻と耳を総動員して、廃道にいるであろう(もしくはつい今しがたまでいたであろう)動物の気配を探りましたが、鼻以外は何もとらえることはできませんでした。気配を探りつつあたりの地形を観察すると、遠くに国道の大きな長い橋が見えました。橋!そうか、山の奥からこの場所に出てくるには、他の場所と違って道を渡る必要がないんや。そして出てきたらお誂え向きに歩きやすい廃道が川沿いにある。クマさんがここを通るのは必然なんや。恐怖は感じつつも意外に冷静に状況を考察できました。とにかく下流に入ってる同行者2名に知らせないと。廃道の様子をうかがいつつ、ガレ場と岩場を伝って彼らのところへ。「さっきのニジはどうでしたか?」とTM君。「いや、出てこんかった。それより元来たルートを通らずに車に戻る手段はある? 実はすぐそこの崩れのところで強烈な獣臭を嗅いだ。間違いなくヒグマがいたはずや。行きしなにはそんな臭いはまったくしなかったやろ? …ということは、俺が下で釣りをしてた15分ほどの間に、ヤツが廃道まで出てきてたんや。まだあのあたりに潜んでいるかもしれん。ほら、ここでも微かに臭うやろ?」「ずっと下ったところに川と国道が比較的接近してる場所があります。ここはさっさと退散して、釣りながらそこまで水際を下り、一気に国道まで上りましょう」「国道に上る道があるのか?」「ありません。クマザサの薮と森を突き切ります。そして急斜面を登ったら国道。それが最短ルートでしょう」「そうか、クマさんの恐怖の次はマダニの恐怖やな(苦笑)」
そして釣りながらその地点まで下っていくと夕方に。「ではこのあたりから突ききりましょう」。そう言ってTM君は笛を吹きながら森の中に。クマザサがけっこう深い。人跡も獣道もない。獣道があったとしてもエゾシカならまだしもクマさん道は絶対イヤだ。予想に反して行けども行けどもササ薮が続く。この密度と高さ、大きなヒグマでも簡単に身を隠すことができる。そしてやっと斜面にさしかかった時、まったく風もないのに例の牛小屋みたいな臭いがどこからともなく漂ってきました。「ほら、臭う…やろ?」「臭いますね…」「俺が崩れのところで嗅いだのは、これを数十倍濃縮したような強烈なニオイやった」「とにかく急ぎましょう。急斜面ですが登りきったら国道ですから」。薮の中の斜面を登り、国道のガードレールが見えた時は正直ホッとしました。そしてガードレールを越えて一息つく。「いや、このすぐ下もクマさんの領域なんやなあ。視界の効かない夕方の薮コギであの臭いを嗅ぐとホンマにイヤやなあ」「いや、臭かったですね。ねえ、メル先輩?」「………(ぜーぜー)」「大丈夫?」「………(ぜーぜー)」。メル先輩は最後尾を登っていたため、背後からヒグマに襲われるのではという恐怖と、ハードな薮コギと斜面登りのため相当消耗したご様子で、ひたすら呼吸を整えていました。たしかにまだ30代で海外試合経験もある元クロスカントリースキーの選手と、いい年こいて身体能力がオカシイといわれるワタクシについてきたわけで、ちょっとジムに通ってるとはいえ、一般人のメル先輩には厳しかったかなと…。
実はあの「牛小屋のニオイ」の正体がわからなかった時に、自分がふと道端で「あれ?このへんに牧場か牛小屋ある?」とTM君に尋ねたことが数度ありました。その時のTM君の返答は「いや、近くにはないですよ。ずっと下ったとことか、ずっと向こうの山の上とか…」。後で思えばあれらもクマさんの残り香だったんや。ツキノワさんの獣臭は何度か嗅いだことがありますが、牛小屋というよりは、汚れた毛の長い大型犬に刺激臭を加えたモノという印象だったので、牛小屋系の臭いとヒグマが頭の中ですぐには結びつかなかったのです。自分たちは完全にヒグマの行動範囲内で釣りをしてたようです。そういや行く前にTM君が言ってたなあ。「このへんに『クマが出ない』ところなんてありませんよ」と。

最近のお買い物

★瀬戸内レモン味 イカ天

いわゆるおつまみ系で「!!」となった逸品。次は「のり天」もためしてみよう。

今月のダメな人

★特になし